トンネル効果によるゼノンのパラドックス
の無効化と物理学の有効性の弁証

★ゼノンのパラドックスが弁証する、物理学の非有効性。
  物理学とは人間の理性が実世界をどこまで正確に理解出来るか?を哲学と数学
  を用いて実践し、かつ得られた理解を有効活用し、生活に役立てる、ある種の試
  みだと考えます。
  ですから、
理性がどこまで自然の数理的構造を正確に描き出し理解できるのか?
  そして、それに限界があるのかどうなのか?を哲学的に探ってみることは、非常に
  重要なことだと考えます。

  数には実無限と可能無限との2種類の数があります。実無限は実数、可能無限
  は自然数や整数の事を指します。

  実数は、稠密に連続して存在する数の無限集合であり、その特徴は数と数の間
  の有限区間(実在すると考えられる)を無限に分割出来ることです。この特徴の
  ために、実無限と呼ばれます。また非可算であることが証明されています。

  自然数や整数は、離散して存在する数の無限集合であり、その特徴はそれ以上
  分割不可能な最小単位である1を持ち、全ての数は最小単位の加減算で明確に
  定義され、かつ無限に作成することが可能です。この特徴のために、可能無限と
  呼ばれます。また可算であることが自明です。

  空間が無限に分割可能な実無限(実数)のようなものだと仮定すると、ゼノンの
  アキレスと亀のパラドックスが生じますが、可能無限のようなもの(自然数・整数)
  だとすると、無限に分割できないので、このパラドックスは生じ得ません。
この事
  は、自然の空間は分割不可能な最小単位を持つ、離散的な存在でなければなら
  ないことを示しています。

  さらに彼の競技場のパラドックスは、アキレスと亀のパラドックスとは逆に、時間も
  空間も無限に分割可能な、連続した存在でなければならないことを示しています。

  この二つのパラドックスは互いに相手の弁証を否定し、そこに矛盾が生じます。
  この矛盾が生じる原因は、自然を数理で記述した為に起こったと考えられ、ゼノン
  の二つのパラドックスは、自然を数理で記述する事が、不可能である事を弁証する
  結果となることが分かります。

  ゼノンのパラドックスは、彼の養父であるパルメニデスの主張する「自然には変化
  も運動も存在しない」ことを理論的に弁証するために考えられたものでした。
  しかし彼のパラドックスの本質は、自然を数理で記述することが不可能であること
  を弁証していることです。この弁証が正しいとすると、自然を数理で記述・応用する
  物理学は偽の学問であるということになります。果たしてそうなのでしょうか?

★競技場のパラドックスの詳細検証 その1。
  そこで、競技場のパラドックスを詳しく調べる必要が出てきます。
  競技場のパラドックスは、観客Cの前を右方向に行進する隊列Aと、左方向に
  行進する隊列Bとが、観客Cの前ですれ違うときの様子を思考実験したものです。
  ==================================================================
  ケース@_隊列Aと隊列Bが観客Cの前ですれ違う様子を表した図
  ==================================================================
  
(隊列A)_____□□□□□→________
  
(隊列B)________←■■■■■_____
  (観客C)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
  ==================================================================
  この仮想世界では、空間も時間も不連続で離散的な存在であり、隊列の行進は
  この仮想世界で取りうる最小の単位空間を、最短の単位時間で行進している、
  との設定にします。
  (速度差の計算を簡略化する為、空間の縦方向、図では上下方向の
   距離を無視し、 空間の横方向の距離だけに限定して考えます。)

  おそらくゼノンは、当時既に時空が離散的な存在であると仮定されると、最初の
  パラドックスが無効になってしまう事を、知っていたと思われます。そこで自然の
  時空が、離散的に存在するとが出来ない事を証明する為に、上記の設定での
  思考実験を考えたと思います。

  つまり、この仮想世界での最短単位時間を1秒、最小単位空間(距離)を1mと
  した場合
  AはCに対して、1秒後に、1m、右方向に移動し、
  BはCに対して、1秒後に、1m、左方向に移動します。
  この時のAとBのCに対する平均移動速度は、
  Aは、右方向に、1m/秒、
  Bは、左方向に、1m/秒、となります。

  上記の設定条件から、この仮想世界では、空間も時間もそれ以上分割不可能
  な最小単位を持っていなければなりません。
  その最短単位時間は1秒であり、最小単位空間(距離)は1mです。
  そしてこの仮想世界は、離散化して存在する時空を前提条件としているので、
  最小単位以下の時間も空間も共に存在し得ないはずです。

★競技場のパラドックスの詳細検証 その2。
  次に、隊列Aと隊列Bの各構成員が一人の場合で、かつ同一直線上を反対方向
  に行進し、近づいていった場合、どの時点で二人が衝突するか、時系列で考察
  してみます。

  (見えやすくするため、図ではAとBが別の直線上を行進しているように、
   書いてありますが、同じ直線上を行進していると考えて下さい。そして
   AとBが同一の単位空間上に存在した時点を衝突時点と判断します。)
  ==================================================================
  ケースA_行進開始時点で、AとBが奇数単位空間、離れていた場合の図
  ==================================================================
  
(隊列A)___□→________
  
(隊列B)________←■___<<行進開始

  
(隊列A)____□→_______
  
(隊列B)_______←■____<<1秒後

  
(隊列A)_____□→______
  
(隊列B)______←■_____<<2秒後

  
(隊列A)______□→_____
  
(隊列B)_____←■______<<3秒後(衝突)

  =================================================================
  ケースB_行進開始時点で、AとBが偶数単位空間、離れていた場合の図
  =================================================================
  
(隊列A)___□→________
  
(隊列B)_______←■____<<行進開始

  
(隊列A)____□→_______
  
(隊列B)______←■_____<<1秒後

  
(隊列A)_____□→______
  
(隊列B)_____←■______<<2秒後

  
(隊列A)_______□→_______
  
(隊列B)______←■________<<2.5秒後(衝突)

  =================================================================

  上の図のケースAでは、3秒後に衝突しますが、ケースBでは2.5秒後に衝突
  します。
行進開始時点でAとBが偶数単位空間、離れていた場合には、AとBが
  衝突するまでの間に、必ず単位時間の半分の時間と、単位空間の半分の空間
  の存在を必要とします。

  ここで、時空が離散して存在する世界では、最小単位以下の時空の存在は許され
  ないので、最小単位の半分の時空が、この仮想世界の最小単位の時空であると
  再定義する必要があります。

  しかし、再定義された仮想空間に於いても、ケースAの思考実験は成立つはず
  なので、更にその半分の時空が、再定義された仮想世界に於ける最小単位の
  時空であると、再々定義する必要があります。

  このことは永遠に繰り返しても終了できないことが分かります。この矛盾は、時空
  が分割不可能な最小単位を持つ、離散的な存在であると、仮定したことが原因で
  起こったと考えられます。

  ゼノンは、上記の理由から、時空が分割不可能な最小単位を持つ、離散した存在
  であることは不可能であると、弁証して見せたのです。

★競技場のパラドックスにおけるゼノンの誤解。
  もし上記の検証どおりに、ゼノンの競技場のパラドックスが実世界に於いて成立つ
  ならば、物理学は自然の記述に全く用をなさないはずです。どこかにゼノンの誤解
  が在るはずです。そこでもう一度ケースBの図を少し変えて考察してみます。
  =================================================================
  ケースC_行進開始時点で、AとBが偶数単位空間、離れていた場合の図
  =================================================================
  
(隊列A)___□→________
  
(隊列B)_______←■____<<行進開始

  
(隊列A)____□→_______
  
(隊列B)______←■_____<<1秒後

  
(隊列A)_____□→______
  
(隊列B)_____←■______<<2秒後

  
(隊列A)_______□→_______<<時空として存在しないので衝突しない
  
(隊列B)______←■________<<2.5秒後

  
(隊列A)______□→_____
  
(隊列B)____←■_______<<3秒後

  
(隊列A)_______□→____
  
(隊列B)___←■________<<4秒後

  
(隊列A)________□→___
  
(隊列B)__←■_________<<5秒後

  =================================================================
  ゼノンは、AとBが同一直線上を対向して行進する場合、必ずどこかで衝突する
  はずだと、考えました。その為に半分の単位の時空の存在を必要としたのです。

  しかし、最初の条件設定から、半分の単位の時空は存在しないはずです。この
  ことは、
この仮想世界には、行進開始から2.5秒後の時間も、その時点の空間
  も共に存在しないことを示しています。

  存在しない時空上に於いて衝突が発生出来るはずがありません。このことから
  ケースCに於いて、AとBとは衝突し得ないことが導かれます。

★トンネル効果発生時の時系列考察。
  ゼノンの時代にはトンネル効果は未だ発見されていませんでしたから、彼が衝突
  は必ず起こるはずだと、考えたのは無理もありません。
ここでどの様な条件の時
  に衝突が起こらないのか(トンネル効果が発生するのか)を最初のケース@の図
  を元に時系列化して考察してみます。
  ==================================================================
  ケースD_行進開始時点で、AとBの先頭が偶数単位空間、離れていた場合の図
  ※☆と★はAとBが衝突した結果、その隊列に存在しなくなった隊員のことを表す
  ==================================================================
  
(隊列A)____□□□□□→__________
  
(隊列B)__________←■■■■■____<<行進開始

  
(隊列A)_____□□□□□→_________
  
(隊列B)_________←■■■■■_____<<1秒後

  
(隊列A)______□□□☆☆→________
  
(隊列B)________←★★■■■______<<2秒後

  
(隊列A)_______□□□☆☆→_______
  
(隊列B)_______←★★■■■_______<<3秒後

  
(隊列A)________□☆☆☆☆→______
  
(隊列B)______←★★★★■________<<4秒後

  
(隊列A)_________□☆☆☆☆→_____
  
(隊列B)_____←★★★★■_________<<5秒後

  
(隊列A)__________□☆☆☆☆→____
  
(隊列B)____←★★★★■__________<<6秒後

  
(隊列A)___________□☆☆☆☆→___
  
(隊列B)___←★★★★■___________<<7秒後

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  ケースDより、行進開始時点で、AとBが偶数単位空間、離れていた場合には、
  隊列の最後尾の隊員だけが、相手に衝突しないで通り抜けることが出来ます。
  同様に、行進開始時点で、AとBが奇数単位空間、離れていた場合には、全て
  の隊員が相互に衝突し、どの隊員も通り抜けることができないことが分かります。

★トンネル効果によるゼノンのパラドックスの無効化と物理学の有効性の弁証。
  このように、この世界の時空が離散して存在すると仮定すると、なぜトンネル効果
  が生じるのかが、ゼノンの競技場のパラドックスを通して数理論的に、簡単に導く
  ことができます。そしてさらに、ゼノンの競技場のパラドックスが、トンネル効果を
  考慮することにより、無効化されます。このことより、この世界を数理で記述し応用
  する物理学は、有効であることが弁証されます。


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